D広告代理店事件(最高裁判決H12.3.24で)は、徹夜など毎日長時間の残業を要求された社員が長期の慢性的疲労、睡眠不足、いわゆるストレス等によってうつ状態となり自殺してしまった事件です。長時間残業や徹夜が何ヶ月も続き、ストレスで本人の様子が明らかにおかしくなったにも関らず(回りも気がついていた)上司は適切な業務の調整を行わず亡くなる直前に「早く帰宅して睡眠を取り業務が終わらないようであれば翌朝早く出勤して行うように」と注意、指導したのみでした。この裁判で最高裁は会社の安全配慮義務違反を認め高裁に差し戻しました。
最高裁では、会社は恒常的な長時間労働を分かっていながら単に注意、指導するだけでは社員の健康に配慮したとはいえず、社員の健康悪化に気づいた場合使用者や上司は健康状態に合わせたしかるべき処置を取るべきとの見解が示されたのです。
この判例は、使用者は社員の仕事疲労や心理的負担が過度に蓄積して健康を損なうことがないように注意する義務があるだけでなく、使用者や上司が予め労働者の心身の健康状態の悪化に対応できる十分なメンタルヘルスケア体制を準備していなかったときにも、安全配慮義務違反に値する可能性があることを示唆しています。
この裁判は2000年6月23日の差し戻し控訴審の高裁で会社は1億2600万円(遅延損害金を含めると約1億6857万円の損害賠償を遺族に支払ったうえ、謝罪することで和解が成立しました。
この判決は、過労自殺に関して、損害賠償請求訴訟(被告は企業)・行政訴訟(労災保険金を不支給とした労働基準監督署の処分取消を求める訴訟で、披告は国)を問わず、初めての最高裁判決であり、また、脳・心臓疾患等の過労死全体を通じても、損害賠償請求訴訟としては、最高裁が企業責任を認めた初判決であり、その後の労災訴訟にも大きな影響を与えています。